緑内障の診断は経過を見なければ難しい場合があります。
[最終更新日:2021.03.22]
著者
上江田信彦
医学博士
日本眼科学会認定 眼科専門医
我が国では成人の失明原因のⅠ位は緑内障です。緑内障は末期になるまで症状が自分ではわかりません。このため、緑内障は健康診断で眼圧検査や眼底検査を受けたことをきっかけに見つかることが多いです。今この記事を読んでいるあなたも健康診断で緑内障といわれたのだろうと思います。
しかし健康診断で緑内障といわれて眼科を受診しても「緑内障ではありません。」といわれたり、「しばらく検査を続けて様子を見ましょう。」といわれたりすることは少なくありません。また、検査で様子を見ているうちに主治医がかわり「これは緑内障ではありません。」といわれてどうすればよいのかわからなくなることもあると思います。このようなことがおこるのは、緑内障は診断が難しい場合があることや、緑内障と診断するためには時間をかけて経過を見なければいけない場合があるためです。
目次
緑内障の診断
緑内障の眼底の変化
緑内障の診断が難しい場合
視神経乳頭の形には個人差がある
大乳頭と小乳頭
生まれつき視神経乳頭陥凹がめだつ場合
強い近視
緑内障とまぎらわしい病気
網膜の血管が詰まる
網膜色素変性症
前部虚血性視神経症
薬剤性・中毒性視神経症
脳に起きた病変による視神経萎縮
経過を見ることの大切さ
緑内障の診断
緑内障の診断は眼圧が非常に高い場合にはとくに難しくはありません。しかし、眼圧がそれほど高くない場合には眼底検査で緑内障の診断をします。この場合には緑内障の診断が難しいことがあります。
緑内障の眼底の変化
緑内障では目から脳にものを見たことを伝える神経(視神経)が弱ってきます。このために視神経の根元(視神経乳頭)のへこみが大きくなってきます。これを視神経乳頭陥凹の拡大とよんでいます。そして視神経乳頭の周囲の神経が薄くなってきます。
視神経乳頭の形が正常に近い場合には緑内障の診断はあまり難しくはありません。またOCTなどの診断機器により、視神経乳頭陥凹の拡大や神経の厚みが測定する場合にもとくに問題はありません。
緑内障の診断が難しい場合
視神経乳頭の形には個人差がある。
視神経乳頭の形には個人差があります。視神経乳頭の形が正常からかけ離れていると視神経乳頭陥凹の拡大を正確に把握するのが難しくなります。
大乳頭と小乳頭
たとえば視神経乳頭の直径が大きい場合には視神経が障害されていなくても視神経乳頭陥凹が目立ってきて緑内障と間違われることがしばしばあります。反対に視神経乳頭の直径が小さいと視神経乳頭陥凹が目立たないため、緑内障が見落とされる場合がしばしばあります。
生まれつき視神経乳頭陥凹がめだつ場合
生まれつき視神経乳頭に陥凹がめだつ場合があります。このような場合、神経が薄くなり、視野に障害もおこるため、緑内障とまぎらわしいことがあります。たいていは視野障害は進行しません。しかし、このような場合にも緑内障が合併することもあるため注意が必要です。
強い近視
強い近視があると網膜が薄くなり、視神経乳頭が変形するため緑内障の診断が難しくなります。しかも近視があると緑内障になりやすいため注意が必要です。
緑内障とまぎらわしい病気
網膜や視神経の病気の中には視神経乳頭陥凹がおこり緑内障とまぎらわしいものがあります。
網膜の血管がつまる
網膜の血管が詰まると網膜の神経が薄くなります。血管が詰まってすぐには出血やむくみがおこるので診断は難しくありません。しかし血管が詰まって時間がたつと出血やむくみがなくなり網膜の神経が薄くなってきます。こうなると緑内障で神経が薄くなっているのと見分けることが難しくなります。
網膜色素変性症
網膜全体が薄くなるために視野が狭くなり暗いところでものが見えにくくなる病気です。通常は網膜に茶色の色素が現れるので診断は難しくありません。しかし、白内障などで網膜の状態を観察しにくい場合や、網膜に色素が現れない場合では緑内障との区別が難しくなることがしばしばあります。
前部虚血性視神経症
視神経乳頭の血流が低下することにより、視神経が傷害される病気です。血流が低下して時間がたつと視神経乳頭陥凹がおこるために緑内障と区別が難しくなることがあります。
薬剤性・中毒性視神経症
薬や有害な物質で視神経が傷害され、視神経乳頭陥凹がおこることがあります。特にメチルアルコールなどによる中毒では緑内障とよく似た深い視神経乳頭陥凹が起こるので注意が必要です。
脳に起きた病変による視神経萎縮
脳動脈瘤や脳腫瘍などの脳に起きた病変のために視神経が圧迫されると、緑内障に似た視神経乳頭陥凹が起こることがあります。
経過を見ることの大切さ
緑内障は視野障害がゆっくりと進み、末期になるまでは視力は低下しません。一方、視野障害が急激に進行する場合やほとんど進行しない場合や、早期から視力が低下する場合には緑内障ではない場合が多いです。このように緑内障の診断には視野障害の進行をよく見る必要があります。このために緑内障の診断には視野霜害の進行を長期間にわたって観察するが重要になります。
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