正常眼圧緑内障をすぐには治療しない理由。
[最終更新日:2020.10.20]
著者
上江田信彦
医学博士
日本眼科学会認定 眼科専門医
正常眼圧緑内障と診断されてもすぐに治療がはじまるわけでなく、しばらく様子をみましょうと言われて不安になる方は多いのではないかと思います。日本では緑内障は失明原因の第一位とされていますので、治療しないと失明してしまわないかと不安になる人もいるのではないかないかと思います。私の医院に通院されている患者さんからも、「治療をしなうていいのですか?検査ばかりで大丈夫なのですか?」と尋ねられることもあります。今回はまだ治療をはじまていない正常眼圧緑内障の患者さんのために「正常眼圧緑内障と診断してもすぐには治療しない理由」を説明していきたいと思います。
正常眼圧緑内障の特徴
正常眼圧緑内障は視野が徐々に狭くなる病気です。 現在の医学では正常眼圧緑内障で狭くなった視野を回復させる方法はありません。 このため現状では正常眼圧緑内障の治療の目的は視野が狭くなるのをおさえることにより、視野が狭くて生活に支障が出るのを少しでも遅らせることです。
さいわい、正常眼圧緑内障で視野が狭くなるのには何年もかかります。 だから正常眼圧緑内障と診断されても、視野障害が重症である場合を除いて、すぐには治療する必要はありません。 正常眼圧緑内障は治療前のデータをきちんと把握する必要があります。特に治療前の視野が狭くなる早さと眼圧を把握する必要がありますが、どちらもすぐには把握できません。
正常眼圧緑内障は治療前の視野の広さを把握する必要があります。
正常眼圧緑内障の治療の目的は視野が狭くなるのをおさえることです。ですから、治療が必要であるかどうか、治療治療の効果が出ているかどうかを知るためには視野が狭くなる早さを把握する必要があります。
治療前の視野が狭くても悪化するのが非常に遅かったり、悪化しない場合には治療の必要はありません。治療が過剰になることを避けるためにも治療前に視野が狭くなる早さを把握する必要があります。
治療治療の効果が出ているかどうか、いいかえれば視野が狭くなる早さをおさえられているかどうかを知るためには、治療前に視野がどれだけの早さで狭くなっているのかを把握する必要があります。 眼圧があまり下がらなくても、視野が狭くならなくなれば治療を強くする必要はありません。反対に眼圧が下がっても視野が狭くなるのをおさえることができなければ、さらに強力な治療が必要になります。
しかし視野がどれだけの早さで狭くなっているのかを正確に把握するためには時間がかかります。これは正常眼圧緑内障では視野は何年もかけてゆっくりと狭くなっていくからです。当院では軽症~中等度の方ではおおよそ1~2年かけて様子を見ています。重症の方は早めに専門家による緑内障手術が可能な病院に紹介しております。
正常眼圧緑内障は治療前の眼圧を把握する必要があります。
緑内障でも眼圧が正常より高い場合には、眼圧を正常範囲まで下がることを目標にします。一方、正常眼圧緑内障では眼圧は治療前から正常範囲内です。 しかし、これまでの研究からは、正常眼圧緑内障の患者さんの大部分は眼圧を治療前から30%下がると視野が狭くなるのをおさえることができることが知られています。実際には治療前の眼圧から20%下がることを目標にすることが推奨されています。そこで治療前の眼圧を正確には把握することが必要になります。しかし治療前の眼圧を把握するためには眼圧を複数回測定する必要があります。これは眼圧は変動しやすく、一日の中でも時間により変化しますし、季節によっても変化するからです。
以上、「正常眼圧緑内障と診断してもすぐには治療しない理由」を説明しました。治療前の正常眼圧緑内障の患者さんの気持ちが少しでも軽くなればさいわいです。
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